皆様、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。
さて、挨拶もそこそこにして、本題に入りたいと思います。今年、そして今後高校受験を控えている生徒および保護者の方にとっては、今回の内容は非常に重要なものとなっております。
以前と比べて大学の合格者選抜方法は多種多様なものとなっており、その中でも一般に『推薦入試』といわれる『総合型選抜・学校推薦型選抜』の割合が増加傾向にあります(といっても、国立大学の場合はほぼ現状維持の微々増程度ですが)。実際にどの程度の割合になっているかというと、2024年度入試(現高校3年生)では国立大学の定員の20%、公立大学では31.5%となっています。一方私立大学では、こちらは2022年度入試のデータですが、60%弱となっています。国公立大学と比較すると、私立大学の割合が高いことが分かると思いますが、ではなぜ国立よりも公立、公立よりも私立の割合が高いのでしょうか?
おそらく皆さんお分かりかと思いますが、その理由は『国(文部科学省)の無策で増加した大学入学定員』と『少子化』です。さらに学費の安い国公立大学に進学を希望する学生や親が多く、これらの事情により入学定員の確保が難しくなった私立大学の多くができるだけ早期に学生数を確保するために『年内入試』とも呼ばれる推薦入試にウエートを置くようになりました。そうしなければ入学者数を確保することが困難になっているからです。最近新設された多くの公立大学も知名度・人気では国立大学には敵いませんから同じような状況といえます。ちなみに私立大学の50%以上は定員割れの状態となってますから、学校の経営を考えるとこうするしかない状況なのです。
また、学生の側からしても、早期に入学が確定する年内入試は魅力的なものとも言えます。進学先の決定が早ければ早いほど、春からの新生活の準備に時間をかけることができるからです。まあ、受験生の立場から早めに脱却することができ、嫌な勉強をしなくて良くなるという面のほうが強いかとも思いますが。
ここで何点か、多くの皆さんの誤解を解かないといけません。そのうちの一つは『推薦入試のほうが一般入試より合格しやすい』というものです。上記のように推薦入試の割合が高くなり、受験生側もその制度での合格を望んでいるとどうなるでしょうか。当然推薦入試の受験者が増えて高倍率となります。そして不幸にして合格を得られない人が増えてきます。常識的に考えてみましょう。倍率・競争率が2倍でも合格者は2人に1人です。これが3倍、4倍…となるとどうでしょうか。合格者のほうが少なく、不合格が『当たり前』となります。実際倍率が2倍以下に収まる推薦入試は少数で、低くとも3倍程度にはなると思ってください(参考までに昨年の愛媛大学の一般入試の倍率は全学部の平均で1.9倍です)。
さらに一点、『推薦で合格する人は成績がいい』という誤解があります。これはある意味正解なのですが、ここでは『成績』と『学力』は『似て非なるもの』だということを理解する必要があります。ここでいう成績とは『学校の成績表』に現れる成績です(推薦入試ではこれが低いと受験すらできない場合が多いので重要になります)。では学力とは何かというと、簡単に言うと模擬試験での偏差値がこれに該当するかと思います。もちろん学力が高いと成績も高くなるのですが、成績が高くとも学力が高いとは言い切れない現状があります。これは不思議に思う人が多いかもしれませんが、成績の元になるのは基本的には学校の定期テストの点数です。ご存知のように定期テストの範囲は狭く、テスト前の短い期間での対策でそれなりの成果を出すことが可能です(個人的には私はそれを『一夜漬け』ならぬ『一週間漬け』と呼んでいます)。対して学力を上げるためには、例えば模試や一般入試などはこれまでに学んだことすべてが試験範囲となるため一週間やそこらの対策ではかなり困難です、というより不可能と言えるでしょう。長期に渡る日々の継続した学習が必要なのです。受験産業に携わる人の中にも『一般入試は短期集中型の人に向いていて、推薦入試は日々継続した学習をする人に向いている』という誤った認識を持つ人がいますが、試験範囲が狭く一週間漬けによる点数アップが見込めるものと、これまでの人生で学んだ全てが試験範囲となるもののどちらが短期集中型の人に向いているのか、自明の理といえましょう。
「それだと短期集中で対応できる推薦入試のほうが楽に進学できるのではないか?」と考えるかもしれません。そう、これはある意味真実を示している言葉です。それは『推薦で合格した人にとってはそう言えるが、推薦で不合格となった人には一層の困難が待っている』からです。先程も申し上げましたが、推薦入試で必要な成績と一般入試で必要な学力は似て非なるものだからです。成績と学力、上げるためにより一層の努力・時間を必要とするのはどちらでしょうか。当たり前に学力です。推薦入試で不合格となった人には学力アップのための時間は残されていません。推薦入試の倍率が2倍を超えることが当たり前となった今、そこに集中して進めることは非常に危険を伴うのです。
「推薦さえされればほぼ合格が確約されている指定校推薦制度があるじゃないか」という声もあるでしょう。それについても触れておかないと不公平になりますね。指定校推薦というのは大学側が高校を指名して『そちらの高校から○名合格させますので校内で推薦してください』というもので、これは私立大学にのみ存在している制度です。国公立大学にはありません。さらに言えば、この対象大学は年々変化します。例えば地元の高校にはかつて早稲田や青山学院、芝浦工業大学などの指定校推薦がありましたが今は消え去っております。どこでもいい、大学でありさえすれば…というのなら構いませんが、自分が希望する大学・学部が指定校となっているかは運頼みなのです。
私立大学には『内部進学・内部推薦』という制度もあります。系列校や付属校から進学する制度ですがこれも上記の推薦入試に含まれていますから、この人数を差し引くと一般の推薦入試での合格者の割合は下がってきます。今年は有名な子役だった方が数名この制度で某有名大学に進学したので注目を浴びています。悲しいかな、ここ愛媛ではこの制度が利用できるのは〇〇高校の数名のみです。
上記の内容についてご存じの方も多いかとは思いますが、あえて触れてみました。それは『人は真実を伝えるが、多くの場合真実の中の自分に都合の良いもののみを伝える』ものだからです。具体的な例を上げてみましょう。『〇〇君は部活と勉強を両立して希望大学に合格したよ』という言葉を運動部の顧問などからよく聞きます。これは真実なのでしょう。この〇〇君はとても立派だと思います。ですが、両立できなかった人の話や、両立できなかった人がどの程度の割合でいるのかを語ることはありません。顧問にとっては不都合な真実だからです。
『勉強するにも体力が必要だから運動部で体力をつけよう』という言葉もあります。勉強するのだって体力が必要なのは真実です。では、体力が必要な勉強をしていればその体力は身につくということを語る人はいません。また、勉強するのに必要な体力を部活が奪っていることについても触れられることはありません。
『部活で体力をつけていればその体力で最後の追い込みができ、追いつくことができる』とも聞きます。追いつくかどうかまでは疑問ですが、追い込みで学力がアップすることは真実です。これは体力のあるなしには関係ありません。勉強するのですから当たり前です。ですが『うさぎとかめ』のお話のように先行者がサボってくれるのを期待するのでしょうか。先行者が同じ努力を続けた場合も後続は追いつけるのでしょうか。
このようなことが中学校での進路指導でも行われることがあります。A高校のメリットとB高校のデメリットを挙げてA高校を勧める…これは生徒にとって不幸と言わざるを得ません。両高校のメリット・デメリットをともに挙げて比較検討の材料とすることが必要です。最終決定権は生徒自身およびその保護者にあるのですから、その判断材料を客観的に与えなければなりません。人は自分に都合のいい真実のみを伝える、嘘は言わないが都合の悪いものは隠す傾向にあるということを忘れてはなりません。
最後になりましたが、今年も一年よろしくお願いします。